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フランス国防省の「核実験被害者補償法案」について被害者団体がコミュニケを発表

08年11月末にフランス国防省が「核実験被害者補償法」案を提出する意向を発表した後、フランス政府と被害者団体との間で「共和国仲裁人(Médiateur de la République)」を仲介者とした折衝が行われてきました。

「共和国仲裁人」とは、市民と行政当局との間で紛争が起きたさいに、両者の間に立って調停を行い、行政裁判にまで至る前に紛争の解決を試みる国の独立機関です。この「共和国仲裁人」を仲立ちとして、被害者側は「核実験被害者補償法」案への要望を提出しました。

この要求項目のいくつかは、政府原案に取り入れられたもようです(原案段階の条文が未公表のため不明)。ただ、共和国仲裁人による提言を国防省がどこまで取り入れるかは不透明で、実際の法案の内容と被害者の望む補償制度との間には、まだかなりの距離があるようです。以下は、これまでにこの折衝について被害者団体側が連名で発表したコミュニケの訳です。

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2008年12月22日、国防省での意見聴取後のコミュニケ

パリ、2008年12月22日

フランス核実験被害者である

  • 元核実験従事者協会(AVEN)
  • 「真実と正義」支援委員会
  • ポリネシア核実験被害者協会(モルロアと私たち協会)

の代表団は、12月22日(月)に、ジャン‐ポール・ボダン国防省官房長補佐とその補佐官に招かれた。

被害者団体や、多数の議員立法法案、「真実と正義」支援委員会の忍耐強い活動の末に、エルヴェ・モラン国防大臣は210回にわたるフランス核実験の被害者補償法案を提出すると発表した。

本日12月22日、上記3団体は、次のような意見を表明した。

  1. 3団体は、推定被曝線量の「閾値」の概念を採用しなかった旨を確認するとともに、「病原の推定」について歩み寄りが見られることを確認した。
  2. ただし、被曝に起因する疾病の表と、表に記載のない疾病に対する補償請求手続きに関しては、まったく変わっていないことを確認した。
  3. 3団体は、複雑で特異な仏領ポリネシアの状況が、法案原案および政令原案に反映されていないことを強調した。現状の政府法案では、カテゴリー分けされた被害者の間で容認できない差別が残っている。
  4. 3団体は、アルジェリアでのフランス核実験の影響が政府原案にもりこまれたことを確認したが、周辺住民および汚染サイトの原状復帰について何の措置も見込まれていないことを遺憾に思う。
  5. 3団体は、同法の追跡調査委員会に被害者団体が加えられることになった旨を確認したが、補償委員会にも被害者団体が参加できるよう要求する。この点について、3団体は「補償基金」を設立し、新規申請の手続と、補償受給者や受給対象者の再申請手続きの簡略化をはかるよう要求する。

このように、現法案は、満足できる法案からはまだほど遠く、国民議会の全政党の超党派議員連盟が提出した共同議員立法法案からもほど遠い内容である。

したがって、09年1月13日に予定されている国民議会の審議は、長年にわたって損害賠償を待ち続けてきた民間人、軍人、アルジェリア人、ポリネシア人の被害者とその家族に対して、重い責任を負うことになるだろう。

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2008年1月10日のコミュニケ

リヨン、2009年1月10日

「真実と正義」支援委員会、AVENおよびモルロアと私たち協会は、核実験被害者の補償に関する法案の準備段階で、新たな進展が見られたことを確認する。

共和国仲裁人は、AVENやモルロアと私たち協会、「真実と正義」支援委員会の要求、ならびにこれまでに提出された18件の議員立法法案に非常に近く、また最新の2009年1月30日付政府原案とは大幅に異なる案を提案してきた。共和国仲裁人は、アスベスト被害者補償基金をモデルにした次のような補償基金の設立を提案している。

  • 被害者団体が理事会に正式メンバーとして参加し、この理事会で補償を行うさいの原則を決めるとともに、後に、基金が保有する記録をまとめて科学的な追跡調査に供する。
  • 被害者の救済を優先した補償制度にする。
  • 係争が起きた際には、審査委員会が個別のケースごとに被曝状態を審査する。

「真実と正義」支援委員会、AVENおよびモルロアと私たち協会は、この提案を支持するとともに、国民議会がこの提案にもとづいて、すべての核実験被害者が平等に扱われる法律を制定するよう要望する。

現在条文化されている原案は、多数の被害者が補償の対象から外されることになるため、受け容れられない。

共和国仲裁人は、2009年1月9日付の「修正提案09-R02」のなかで、関係大臣(国防、保健、予算の各大臣)に対し、「平等な賠償のメカニズムを制定するために設定すべきと思われる原則」として、次の項目を提言している:

  1. 放射線被曝に起因する疾病の単一のリストを作成すること。ただし、その作成に当たっては、独立の科学機関に委託すること。
  2. 放射線被曝に起因する疾病と核実験との間の推定的因果関係を認めること。
  3. アスベスト被害者補償基金をモデルとした補償基金を設立し、核実験被害者が受けた損害を全面的に賠償する措置を実施すること。
  4. アスベスト労働者早期退職給付金を参考にして、核のリスクに曝される国家公務員の早期退職給付金制度をつくること。

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