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モルロアと私たち協会、仏国防省「核実験被害者補償法案」を批判

ポリネシアのフランス核実験被害者がつくるモルロアと私たち協会は、09年5月27日にフランス政府が閣議了承した「核実験補償法(モラン法)案」について、「国民の目を欺くための政治宣伝」と厳しく批判しています。以下は、09年5月30日にモルロアと私たち協会が発表した声明の訳です。

モルロアと私たち協会


2009年5月30日、パペエテにて

声明

リシャール・トゥヘイアヴァ仏領ポリネシア選出上院議員の質問に対するJ.-M. ボッケル国防閣外大臣の答弁について

国民の目を欺くための政治宣伝

挙証責任の逆転について

モラン国防相に続いて、ボッケル国防閣外大臣も「挙証責任の逆転」という点を前面に出している。これは世論と議員の目を欺くただの空約束に過ぎない。「挙証責任の逆転」という文言は、法案のどこにも用いられていない。国防相はこれを大幅な前進であるかのように発表しているのに、これはどういうことなのだろうか…?

しかも、「挙証責任の逆転」という概念は、法案の第4条I項3段落の規定で否定されている。この条項では、補償委員会が「補償の条件が満たされているか否かを検討する」、つまり被曝状態との間の関連が認められるかどうかを、疾病の性質にもとづいて委員会が検討すると規定されている。これは挙証責任の逆転などではなく、推定原則[訳注1]の採用を拒否しているということだ。法案のこの段落は、逆に、被曝線量の記録がない者やデタラメな被曝線量記録しかない者、放射能測定器がなかったために放射性降下物を受けなかったとされている島の住民、国防相がガンを起こすほどの放射性降下物を受けていないとみなした島の住民など、核実験場の周辺にいた人々のほとんどを補償の対象から排除する手続きを根拠づけるものだ。

したがって、法案のこの第4条の規定は、前進などではなく、状況はこれまでとまったく変わっていない。それどころか、国防相の最終決定に対して異議申し立てをするには、果てしのない裁判手続きを取らねばならなくなるため、かえって状況は悪くなったと言える。

「独立の補償委員会」について

ボッケル国防閣外大臣は「この法案ですべてに対応できるわけではない」としているが、すでにポリネシアの社会保障制度から支払われた補償金の返済、環境への影響など「積み残し」になっている問題を議論し、解決策を見出すための制度や場は何も示されていない。

しかも、ボッケル国防閣外大臣の発言は、国民議会から正式な要請があれば「核実験追跡調査国家委員会」の設置を受け容れるよう法案改正を行う用意があることをにおわせたモラン国防相の発言から後退している。積み残された問題を処理するためには、こうした委員会が必要である。

核実験の環境への影響を改善する措置について、ボッケル国防閣外大臣は、周辺の島(ガンビエ、レアオ、プカルア、トゥレイア)で再生事業を行ったことを挙げている。この発言は、言語道断だ。これらの島々の再生事業とは、単に有人の島や環礁に太平洋実験センター(CEP)が残していた施設の廃墟を取り除いたにすぎない。それどころか、この事業は結局、核実験の放射性降下物から人体を護る措置において、住民と軍関係者との間で差別が行われていたことを示す目立つ痕跡を「消し去る」ものでしかなかった。図に示したように、放射性降下物はポリネシア全体に降っていた。

環境への影響をめぐっては、モルロア環礁とファンガタウファ環礁の現状調査、監視、再生も課題だ。これらの環礁は、たび重なる核実験で強く汚染され、地盤が脆弱化している。その危険性に最初に曝されるのはポリネシア住民であり、それについてボッケル国防閣外大臣(そしてモラン国防相)が何も触れていないことは容認できない。

モルロアと私たち協会

放射性降下物が降った回数(出典:フランス国防省資料)

図:1966〜73年(フランスの大気圏核実験が行われた期間)に、各島で放射性降下物が降った回数(赤字の( )内の数字。出典:フランス国防省資料)

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[訳注1]過去に放射線に被曝しうる状況にいた事実があり、放射線被曝に起因すると認められた疾病に罹患している場合に、過去の被曝と現在の疾病との間の因果関係を推定的に認め(因果関係に関しての認定を行わない)、自動的に補償を行う原則。一般的な職業病の認定や、アメリカの放射線被曝者補償法(RECA)でこの原則が採用されている。

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