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パペエテ労働裁判所の判決をどう見るか?

すでにお伝えしていますように、パペエテ労働裁判所は09年6月25日、元核実験労働者8人の労災不認定取り消しの求めを、「申請期限を過ぎている」として却下しました。しかし、その一方で、すでに死亡してる原告1人の子供3人に対して1人あたり100万CFPの損害賠償を命じたほか、原告4人について疾病と核実験による被曝との関連を調査するよう命じました。

被害者団体のモルロアと私たち協会は「人種差別の判決」と批判している一方、原告側のテッソニエール弁護士は「ポリネシア法の制約のなかでかなり踏み込んだ判決」と、一定の評価をする声明を行っています。

この判決をどう解釈すべきなのか? 国民議会で6月25日から審議中のフランス国防省が提出した「核実験被害者補償法案」に被害者側の要求を踏まえた修正をできる限り加えるべくパリで奔走中のブリュノ・バリオ氏に、メールで率直な疑問をぶつけてみました。

以下はバリオ氏とのやり取りをまとめたものです。

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——今回のパペエテ裁判所の判決は、基本的に「労災申請期限を過ぎている」という理由で被害者側の訴えを退けています。これは、フランスの社会保険裁判所が「放射線被曝による疾病は、数十年を経て発病し得る」として被害者の勝訴判決をいくつも出していて、最高裁であるコンセイユ・デタもこれを認めて判例として確立しているのと比べると、あまりにも被害者側に厳しい判決という印象を与えますが、なぜこのようにフランス本国と格差のある判決が下されたのでしょうか?

ブリュノ・バリオ:フランスの職業病認定手続きは、基本的にポリネシアと同じで、疾病を証明する医師の診断書が出されてから2年以内に、フランスでは社会保険金庫(CSS)に、ポリネシアでは社会共済金庫(CPS)に労災申請を提出しなければならないことになっている。

フランスでは、「社会保険再審地域圏委員会」が設置されていて、労災に関する規定を次の2点で「補正する」ことができるようになっている。

  1. 2年という申請期限を免除すること。とくに長期を経て発病する放射線被曝による疾病であるために、罹患した(元)労働者が、自分のガン(あるいはその他の疾病)が20〜30年も前の仕事と関連があるとは思いもよらないために申請が遅れた場合。
  2. 「職業病リスト外」の疾病、つまり職業病として認められている疾病以外の疾病を職業病として認めること。

この「社会保険再審地域圏委員会」の裁定は、司法制度(裁判所)を通して行われるのではなく、この地域圏委員会の医師によって行われる。

われわれも先週の金曜日に、「フランス本国では、2年の申請期限を免除された民間の核実験従事者がたくさんいるが」という同じ質問をテッソニエール弁護士に訊いてみたが、彼の答えは「フランス本国で職業病認定を申請した元核実験従事者のほとんどは2年を過ぎたあとの申請だったが、全員が「社会保険再審地域圏委員会」によって2年の期限を免除された」ということだった。しかも、そのなかの多くは「職業病リスト外」の疾病だったが、この委員会によって放射線被曝によるものと認められたとのことだった。現在、この社会保険再審委員会の裁定によって補償請求を最終的に勝ち取ったり、再審請求をしているフランス本国の元核実験従事者は約30人いる。

——ポリネシアでも同じような「補正」制度があるのでしょうか?

ブリュノ・バリオ:ポリネシアには「社会保険再審地域圏委員会」のようなものはなく、そのため、2年という申請期限と、放射線被曝による職業病として認められている疾病リストがそのまま適用されることになっている。

パペエテ労働裁判所が、職業病認定を求めた8人のポリネシア人元労働者の訴えに対して、ポリネシアで施行されている現行の労災法規をそのまま適用して却下したのはこのためだ。現行の法規が現実に合っていないからといって、それを変えるのは裁判所の役割ではないのだから、当然の判決とも言える。しかしその一方で、パペエテ労働裁判所は、太平洋実験センター(CEP)と原子力庁(CEA)が、核実験場にいた職員の安全を確保する義務があったにもかかわらず、それを怠ったとして、職員の疾病の責任はCEPとCEAにあることを明確に認めた。

——ということは、今後ポリネシア議会が労災法改正をしなければならない?

ブリュノ・バリオ:ポリネシア議会のポリネシア人議員に対して「社会共済金庫再審ポリネシア委員会」の設置を働きかける運動を始める必要があると思う。私が「核実験被害追跡調査方針協議会」 (COSCEN)にいたときに、社会共済金庫(CPS)の理事長と監督官庁の大臣宛てに書簡で、ポリネシアの労災法をフランス本国で施行されているのと同等のものに改正するよう要請した。ポリネシア議会の議員のひとりも、同じ方向で、社会共済金庫と大臣、議会の間で調整するよう要請する書簡を送った。しかし、忘れてしまっているのか、どちらもいまだに何の返事もない。彼らは、口では核実験被害者を支援すると言っていたのに…。

——国防省が提出した「核実験被害者補償法案」(モラン法)は、国民議会の防衛委員会で被害者寄りの修正がかなり行われ、いま本会議で審議されている。今後、被害者はモラン法か、裁判闘争か、どちらで闘うことになるんでしょうか?(モラン法の下で補償を申請すると、同じ損害に対する他の賠償請求はすべて取り下げなければならないとされている)

ブリュノ・バリオ:この点についても、テッソニエール弁護士と話をした。ご指摘の通り、モラン法で補償請求すると、同じ被害について裁判をできなくなってしまう。モラン法で設置が予定されている「補償委員会」が申請を棄却すれば裁判も可能になるが、それはまだ不透明だ。

いずれにしても、われわれとしては、モラン法で補償請求をする前に、裁判をやった場合とどちらの方が有利かを検討した上で、被害者側に勝ち目の多い方へ動くことになるだろう。

「モラン法は何の役にも立たないし、あまり多くの人を救うことにならない」とわれわれが言っているのも、こういう事情があるからだ。モラン国防相は「軍人と民間人の補償請求手続きを一本化したかった」と言っているが、これまで補償請求の道は軍人か民間人かという2つしかなかったのに、モラン法ができたおかげで3つになってしまったわけだ。被害者にとっては、手続きがかえってややこしくなっただけということだ。

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