フロス大統領から公開書簡に返書:「取り壊し」ではなく、あくまで「移転」——闘いはまだまだ終わっていない
ガストン・フロス仏領ポリネシア大統領による首都パペエテ市の海浜公園にある「フランス核実験被害者記念碑」取り壊し決定に対して、日本から決定の撤回と現在地での永久保存を要請する公開書簡を6月30日に提出しましたが、これに対してフロス大統領から7月2日、モルロア・エ・タトゥ経由で返書が送られて来ました。その内容とは「今回の決定は『取り壊し』ではなく、あくまで『移転』であり、移転計画は今後も続ける」(!)というもの。 闘いは「第2ラウンド」に入ったようです。
フロス大統領は、6月30日、ポリネシア公共テレビ「ポリネシア第1放送(Polynésie 1ère)の記者からの質問に対して「彼らが[記念碑を]あそこに残したいのなら、残してもいい。それは別にかまわない。あの記念碑によって、仏領ポリネシアのおかげでフランスがあの核抑止力を保有できた[ことが記憶される]のだから」([ ]内は引用者による補足)と答えました。この発言は、同放送の夜のニュースで、公開書簡を提出した川上直哉・牧師の発言とともに放映されました(フロス大統領の発言は下記のビデオで01:24以降)。
「記念碑移転」計画は続ける
通常、政治家が公共放送記者のインタビューに対して、放映を前提として答えることは、半ば公の発表と解釈されます。
ところが、フロス大統領は7月2日になって、日本からの公開書簡に対して「記念碑を取り壊そうとしているのではなく、移転を計画しているだけ。パペエテの核実験被害者の記念碑は、広島の原爆ドームとは比ぶべくもない単なる石碑であり、歴史的遺産ではない。場所を移しても何ら問題はない。戦後70年間大戦が起きなかったのは核兵器のおかげ」とする返書をモルロア・エ・タトゥ経由で送付してきました。
モルロア・エ・タトゥのローラン・オルダム代表は、「核実験被害者の記念碑を保全するためにお寄せいただいたご支援に深く感謝します。しかし、闘いはまだまだ終わっていません」とのメッセージを伝えています。
以下はフロス大統領からの返書の和訳です:
大統領・上院議員
仏領ポリネシア
N° 1884/07/14 PR/YH
パペエテ、2014年7月2日川上 直哉 牧師
モルロア・エ・タトゥ協会会長ローラン・オルダム様方
仏領ポリネシア福音派教会会館
563 boulevard Pomare – Papeete
仏領ポリネシア
matahika(at)mail. pf
牧師様
核実験被害者を記憶するために建てられた記念碑の取り壊し中止を求める貴殿からの書簡を受け取りました。
まず、多数の間違いを正させていただきます。
第一に、今回の決定は書簡で述べられているような取り壊しではなく、移転であります。この点に関しては、モルロア・エ・タトゥのローラン・オルダム代表宛の書簡で、核実験記念碑を設置するためのよりふさわしいと私が考える別の場所を提案しています。返答はまだ受け取っていません。
第二に、この記念碑が建てられている場所はわずか10年前に整備されたものであり、この記念碑は書簡で述べられているような我が国の歴史遺産ではありません。海に面したあの広場は、私がジャック・シラク大統領に対する仏領ポリネシアからの感謝の印として2003年に建設したものです。我が国はシラク大統領に大きな恩義があります。なかでも、それまでの大統領が単に中断したに過ぎなかった核実験を完全に終了させたのはシラク大統領でした。あの場所は、2005年に完成して以来ジャック・シラクの名を冠していましたが、その後その名を廃して7月2日広場と改名されました。そのさいには当初の名前の選択に対する配慮は一切なく、まさに暴挙ともいえるものでした。
最後に、あの場所は広島の原爆ドームとは比ぶべくもないものです。原爆ドームは、人類の上に落とされた最初の核爆弾という唯一無二の遺跡として真に歴史的な場所であり、人類にとって記憶すべき場所です。かくも重要な場所を、パペエテ市に建てられたあの記念碑と比べることは、いかなる場合にもできるものではありません。あの記念碑は単なる石碑であり、別の場所に移転しても何ら問題ないものです。死者を祀る記念碑や、ドゴール将軍の記念碑など、記念の意義を損なうことなく、すでに移転された記念碑は他にもあります。パペエテ市の7月2日記念碑は、したがって、原爆で破壊された街のあの遺跡とは明らかに何の関係もありません。仮にあの記念碑があなたの同国人である日本の皆様、とくにピースボートで我が国に寄港する日本の方々に対し、そうではないものとして紹介されたとすれば、その人たちは騙されたことになります。
第二次世界大戦中、情け容赦なく、アジアでやオセアニア、ヨーロッパなど、作戦の部隊となった地域ではどこでも、多くの都市が通常兵器によって完全に破壊され、住民が虐殺され、何百万もの人が死に、何百万もの人が住む場所を追われました。これがあの恐ろしい出来事が人間にもたらした被害であり、誰もがあのようなことが二度と起きないことを願っています。紛争はいまなお存在しており、通常兵器による荒廃は続いていますが、先の大戦のような戦争は、70年来一度も起きていません。好むと好まざるとに関わらず、相対的な平和とはいえ、この平和が平和であることは確かであり、それは全てとは言わないまでも、核抑止力のおかげなのです。
私が記念碑の破壊を望んでいるなどど誤解を与えるようなことはしないでください。私が述べ、また書いたように、問題は記念碑ではなく、その場所なのです。
右略儀ながら書中をもってお返事申し上げます。
ガストン・フロス